ヒューマンエラーと自動車設計の関係とは?人間は間違える生き物

30系プリウス、パーキングスイッチ

私たちは、朝起きてから寝るまで、毎日が決断の連続。

「次の交差点を右折しようか?」

「今日は、ガソリンを入れようか?」

「前車の動きがどうも怪しいから、車線変更しよう」

車線変更時のニアミス

ドライバーは認知、判断、操作を繰り返している以上、時には間違える時があります。例えば、

「ウインカーを出して車線変更しようとしたら、ミラーの死角にクルマがいた!」

ドライバーであれば、このような「ドキッ」とするニアミスを経験しているはず。ミスをしない人はいないのです。

このような人のミスを未然に防ぐために、メルセデス・ベンツのモデルによっては「アクティブブラインドスポットアシスト」が装備されています。

ルームミラーとドアミラーの死角に自動車やバイクが入っていると、車線変更時に接触事故を起こす可能性があります。

そこで、一定の車速以上では、そのようなシーンでドアミラーの鏡面に警告ランプが点灯するように組み込まれています。

人間は間違える生き物

メルセデス・ベンツは「人間は間違える生き物」という思想の下で安全を考えてきました。

今日では、電子デバイスをフルに活用することで、人間のミスをアシストし、限界域での挙動変化を制御しています。

人の間違いの中で、間違えてもたいした問題ではないケースと間違えたら大きな問題に繋がるケースがあります。

たいした問題ではないケース

ガソリンスタンド

レギュラー仕様車とハイオク仕様車の両方を運転するドライバーはセルフGSで間違えて、ハイオク仕様車にレギュラーガソリンを入れてしまうケースがあることでしょう。また、その逆もあるでしょう。

管理人の場合、セルフのGSで何故かハイオクを選ぶところをレギュラーを選んでしまい、その時点で気が付いて店員に声をかけたことがあります。その時、何か考え事をしていたのかもしれません。

いずれにしても、それでトラブルが発生することはなく、たいした問題ではありません。ハイオク仕様車にレギュラーガソリンを入れても、ノッキングセンサーが感知してECUに信号を送り、コンピュータが適切に点火時期を制御してくれます。

誤給油対策

このような誤給油を防ぐために、GSの給油ノズルにレギュラー、ハイオク、軽油の3種類の違う形状を与え、自動車の給油口は各ノズル形状にフィットする形状を与えれば、問題は解決します。電装系の各コネクターに準じた考え方です。

しかし、中には1台の自動車で、レギュラーとハイオクを使い分けるドライバーもいることでしょう。ならば、GSの軽油の給油ノズルとディーゼル車の給油口に専用の形状を与えることで、誤給油が無くなります。

このアイデアは軽自動車に「軽油」を入れようとするオーナーにもメリットがあります。

とすると、ディーゼル車には、全て共通の給油口を設置する必要があります。これは、世界の自動車メーカーを巻き込む話。コストの問題を含めて実現化が容易ではないでしょうし、アイデア倒れでしょう。

大きな問題に繋がるケース1

メルセデス・ベンツEクラス W213

では、無灯火で走行中の自動車はどうでしょう?

2007年頃から、メーターパネルが常時点灯する自動車が増加しました。エンジンを始動すると、昼夜を問わずメーターパネルのバックライトは点灯しています。

自発光式メーター採用車の場合、ドライバーはポジションランプ(スモールランプ)、またはヘッドライトが点灯していると錯覚しやすくなります。当時、これが原因で無灯火の自動車、特に年齢を重ねた女性が運転する自動車の無灯火が目につきました。

今でも、このような無灯火の自動車を見かけることがあります。

これは、ヒューマンエラーながら、同時に自動車の設計にも問題があります。

長年、自動車のヘッドライトスイッチをONにすると、メーター照明もONになるように設計されていました。多くのドライバーにとって、このロジックが常識となっているため、すぐに頭を切り替えることができないのです。

オートライト

メルセデス・ベンツAクラスW176-オートライトスイッチ

この問題に対して、メルセデス・ベンツはヘッドライトスイッチを廃止する決断を下しました。

今日のメルセデスは常時、ヘッドライトはオートモードがデフォルト。周囲が暗くなったり、トンネルに入った時点でヘッドライトは自動点灯します。なお、スイッチ操作でヘッドライトをOFFにすることはできますけど、ポジションランプはOFFにできません。

ポジションランプがOFFにできないと、時として不便を感じるかもしれません。しかし、ヒューマンエラーの発生を見越して安全を優先させると、この設計は正しいのでしょう。

なお、2020年度以降の日本車には、オートライトの義務化が決定しています。

大きな問題に繋がるケース2

車窓から高速道路の景色

管理人が一部の日本車に抱いている疑問点の1つとして、インストルメントパネルの各種スイッチ類の設置場所とデザイン。

インパネのデザインは自由度が高いこともあって、各メーカーの力の入れようが窺えます。車種によっては独創性をアピールするためなのか、中には画家のダリ的エッセンスが入っている奇抜なインパネデザインが目を引きます。

しかし、それにより肝心なスイッチの操作性に影響を及ぼしてしまっているケースがあります。

インパネのデザインとスイッチ類のUI

ドライバーが自動車で移動を繰り返していく中で、一番眺めている時間が長いのはシートから前方の景色であり、メーターを含めたインパネ。

インパネはデザインとスイッチ類の操作性を両立させるべき大物UI(※)パーツ。その中で、各スイッチ類をどこに設置し、どのようにデザインし、どのような操作感を与えるのが適切なのか難しい時代に入っていると思います。

と言うのも、カーナビやエンターテイメント機器、各種設定の機能が複雑化、増加傾向にあるからです。もはや、インパネにまともにスイッチを並べたら、飛行機のコックピットと化します。

飛行機は飛行中、対向車も信号機も歩行者、自転車も存在しない空間を飛び続けるため、自動車とは運行環境が大きく異なります。

自動車の場合、各スイッチの操作頻度や重要性から優先順位を与えて、設置位置を決め、スイッチに適度なストローク感や操作感を与え、ブラインドタッチがしやすいデザインが望ましいのです。

スイッチの操作時、ドライバーの瞬間的な脇見運転を極力排除する設計が求められます。

その他、エンターテイメントや各種設定スイッチ、使用頻度が少ないスイッチはモニターに内蔵するのがUI的に正しい設計なのでしょう。メルセデス・ベンツやBMW、アウディは、そのような方向性で各スイッチ類が設計されています。

(※)UI(User Interface/ユーザーインターフェイス)

UIに問題があるスイッチ

インパネとスイッチのデザインを面一(つらいち)にすると、ブラインドタッチが不可能になり、UIに問題が生じます。一例として、このスイッチ。

30系プリウス、パーキングスイッチ

写真を一目見て、スッキリとしたデザインで美しく見えるかもしれません。

しかし、自動車のスイッチ類にこのようなデザインを与えてしまうと、ドライバーは操作の度にスイッチの場所を目で確認する必要があります。

エアコンの設定温度の上げ下げ、風量調整、内気循環と外気導入を切り替える時も、その度にドライバーは視線移動を強いられるのです。

言わば、これはブラインドタッチが不可能で直感的な操作がしにくいスイッチ類。

結果的に、これはドライバーの瞬間的な脇見運転を誘発させてしまうスイッチデザイン。問題アリのスイッチ設計がドライバーのブレーキ操作の遅れに繋がるヒューマンエラーを招いてしまいます。

UIの問題と追突事故の関係

高速道路

交通事故の総件数の約40%は追突事故。追突事故は事故の中で最も多いのです。

追突事故の大きな原因はドライバーの脇見運転。しかし、何故ドライバーは脇見運転をしたのか考える必要があります。

道路交通法の第71条に「画像の注視」に関する条文があります。

(運転者の遵守事項)
第七一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。

(第一号から第五号の四まで省略)

五の五 自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百二十条第一項第十一号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。)に表示された画像を注視しないこと

六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項

出典:道路交通法、第七一条

インパネのオーディオスイッチ

道路交通法の第71条では、カーナビ等のモニターを注視してはならないと書かれています。エアコンの動作状態を表示するモニターも含まれると解釈できます。ドライバーは運転中、これらのモニターを注視してはならないのは当然のこと。

ところが、インパネのスイッチ類のUIに問題があると、ドライバーはスイッチのブラインドタッチが不可能。よって、ドライバーはスイッチの場所を確認するために、視線移動を強いられ、それが追突事故を誘発している可能性はゼロではないと考えられます。

このような追突事故の発生時、警察官の現場検証で、ドライバーの「前方不注意」と判断され、実況見分調書に書き込まれていると察します。追突事故を起こしてしまったドライバーは「前方不注意」と判断されて弁明の余地はありません。

事故処理上、信号待ちの停車車両に後方から追突したドライバーの過失は100%です。

しかし、追突事故の中には、必ずしもドライバーの過失が100%とは言えない場合もあるでしょう。

追突事故が発生した複数の要因の中で、自動車の「問題アリのUI」は事故とは全く関係が無いとは言い切れないのではないでしょうか。

そこで、追突事故を防ぐために、自動車に衝突予防システムを搭載する以前に、各スイッチ類のUIを深く考えて設計するのが順番として先だと思いますね。

最後に

自動車のUIは家電製品やPC、スマートフォンのUIとは大きく異なります。

車は走行中、3次元の複雑な動きを繰り返しています。常に揺れている車内では、スマートフォンで定番のスワイプやピンチイン、ピンチアウト操作は適しているとは思えないUI。

自動車のUIは重要なテーマ。

自動車は人を乗せて高速移動を繰り返す乗り物である以上、問題があるUIは脇見運転を誘発し、重大な事故に繋がる可能性があります。自動車のUIは人命を左右すると言っても過言ではありません。

もし、自動車メーカーのインパネデザインのデザイナー及び、エンジニアがこのページ内で何か気付いたら、早急な設計変更を希望するところです。

他にも、UIを含むヒューマンエラーと自動車の関係について、思いつくことが幾つかあります。また、折を見て書いてみようと思います。

[関連記事]

メルセデス・ベンツのCOMANDシステムはカーナビ操作は勿論、各スイッチの数を減らし、スッキリしたインパネデザインを実現しています。COMANDシステムと従来のカーナビのタッチパネル式の操作性、長所と短所、今後のカーナビのUIとは?
スポンサーリンク