メルセデス・ベンツの特徴の1つとして、ステアリングホイールのセルフアライニングトルク(※SAT : Self-Aligning Torque)と言われる復元力が弱めです。
1990年代までのメルセデス・ベンツはボール・ナットを採用してきたため、セルフアライニングトルクが弱くて当然でした。
セルフアライニングトルクとは、ステアリングを回し、その状態からドライバーの両腕の保舵力を緩めると、ステアリングが自動的に中立位置に戻ろうとする力を意味します。
メルセデスの場合、Uターン時のような低速域で、大舵角の状態からステアリングホイールの戻りがゆっくりなのです。その時、ドライバーは状況によっては、ステアリングを中立位置へ戻してあげるアクションが必要です。
ネット検索すると、メルセデス・ベンツのセルフアライニングトルクに関する記事が乏しいこともあり、呟いてみます。
ステアリングのセルフアライニングトルク
「操舵感」、ステアリングフィールは同一メーカーでも車種毎に違いがあります。
近年、メルセデス・ベンツも電動パワーステアリング採用車が増加しました。電動パワーステアリング採用車と従来の油圧パワーステアリング採用車と比較すると、ステアリングフィールに若干の違いを感じるようになりました。
これは時代のトレンドながら、電動パワーステアリングを採用しているメルセデスでも、ステアリングフィールは従来の油圧パワーステアリング採用車と大差はありません。
電動パワーステアリングを採用しているメルセデスでも、セルフアライニングトルクは弱めの味付けが残されています。
セルフアライニングトルクが弱いという事は、特に低速域で左右にステアリングホイールを回した後、ステアリングから手を離すと、センターに戻ろうとする力が弱いのがメルセデス・ベンツ特有の味付けなのです。

(※)セルフアライニングトルク(SAT : Self-Aligning Torque)
自動車がコーナーリング時、タイヤにはCF(コーナリングフォース)が発生しています。
この時、タイヤにはスリップアングルを元の直進状態に戻そうとする力が発生します。これはセルフアライニングトルク(SAT)と呼ばれます。
コーナーリング中、ドライバーがステアリングから軽く手を離すと、ステアリングホイールが中立位置に戻ろうとする動きはセルフアライニングトルクによるものです。
車種によって、セルフアライニングトルクに強い、弱いの違いがあり、これはキャスター角やサスペンションのジオメトリー、電動パワーステアリングのセッティング、駆動方式、タイヤ等によっても変わってきます。
ハイキャスターでもSATが弱い謎

メルセデス・ベンツのフロントサスペンションのキャスター角は伝統的に大きく、ハイキャスターで有名です。
ステアリングを目一杯切ったフル転舵状態でフロントタイヤを観察すると、凄まじいネガティブキャンバー角が付きます。(上の写真▲)
メルセデス・ベンツのステアリングはコーナーリング中、最後の最後まで操舵が効いてくれる特徴があります。車体のロール量や路面変化に関係無く、フロントタイヤが最後の最後まで路面を捉えてくれます。
メルセデスは高速コーナーリング中、車体が限界を超えると、ドアンダーが出てしまうような唐突なタイヤのグリップ変化が少ないのです。
これは、ボディ剛性の高さやサスペンションのアッパーマウント周囲の剛性、フロントサスペンションのジオメトリーなどと深い関係があるのでしょう。
ハイキャスターの自動車は直進性が高まるため、本来、ステアリングホイールを左右に回しても中立位置に戻ろうとする力が強めになります。
ところが、メルセデスのステアリングは伝統的にセルフアライニングトルクが弱め。
ここがメルセデス・ベンツの謎。
これ以上の探究はサスペンション&操舵関係設計のエンジニアの領域のため、よろしければ、ページ下段のコメント欄より情報を共有できれば幸いです。
セルフアライニングトルクが強い車、弱い車
セルフアライニングトルクが強い自動車の運転
セルフアライニングトルク(以下、SAT)が強めの自動車を運転すると、コーナーリング中の保舵力が重めになる傾向があります。また、電動パワーステアリングのセッティングによっては、同様に保舵力が重めの自動車もあります。
このような車の場合、ドライバーはコーナーリング中、ステアリングホイールをしっかり押さえている必要があります。
また、Uターン時、自動車が180度向きを変えつつ、ステアリングホイールが中立位置に戻って行く時、ドライバーはステアリングが戻りすぎないように適切に操作する必要があります。
この時、自動車が180度向きを変えつつある状態でアクセルペダルを踏むと、更にSATが強くなります。
この操舵感は車種によって違うため、レンタカーやカーシェアリングの車、代車等をドライブする際、少々慣れが必要です。
セルフアライニングトルクが弱い自動車の運転
メルセデス・ベンツのような低速域でSATが弱めの自動車は、ステアリングホイールを回した後、適度な反力とゆっくりとしたスピードでステアリングが中立位置に戻ってきます。
初めてメルセデスを運転する際、低速域でステアリングホイールを回した後、意識的にステアリングを中立位置に戻してあげる必要があります。
メルセデスのSATに慣れてくると、ステアリングホイールが中立位置に戻っていくスピードと車速がちょうどマッチするバランスポイントが見えてきます。
例えば、交差点でステアリングホイールを回した後、ステアリングから手を放しても、アクセルコントロールだけで自動車は右左折しながら上手い具合に直進状態に戻っていきます。
右左折が完了した時点でステアリングホイールが丁度、中立位置に戻っていくのです。
メルセデスのステアリングホイールがN付近(センター)に戻るスピードが絶妙なのです。
最後に

メルセデス・ベンツのAクラス(W176)は電動パワーステアリングを採用しているものの、SATは従来の油圧パワステと同様で弱め。
電動パワーステアリング採用車で、このようなステアリングフィールを実現していることからも、メルセデスのSATセッティングには設計上の深い理由があるのかもしれません。
長距離ドライブしても疲労が少ない自動車として、メルセデスは最右翼的な存在。メルセデスには、ドライバーと乗員の疲労を低減するために様々な奥深い技術が投入されています。
SATのセッティングにも秘密が隠されているのかもしれません。
P.S.
日本車の中で長距離運転すると、腕と肩に疲労を感じるならば、電動パワーステアリングのセッティングに原因がある可能性もあります。
[関連記事]
コメント
こんにちは。
BMWのブログが多い中、このようなメルセデス主体のブログを発見して、とても楽しく拝見させて頂いております。
本文とは無関係ですが、一ファンとして応援しています。是非今後も続けて下さいませ。
当ブログへのアクセスならびにご意見、誠にありがとうございます。
ドイツのパワステの業界で末席を汚している者ですが、メルセデスのステアリングの戻りが比較的弱めなのは知りませんでした。油圧でも電動でもその力配分を決めるのはOEMなので、まぁそういう方針なんでしょうね。
コメントありがとうございます。
パワステの味付けの方針があるようですね。
C200 S204 2009年式を最近購入してすぐに違和感
低速でカーブしてステアリング戻らない・・・
スピード出ていると戻る
キャスター角がおかしいのか?それともどこかおかしいのか?
色々聞いてみても答えが出ない。
ベンツがハイキャスターなら戻ってもいいはずですよね。
これは意図して低速で戻らないように制御しているのでしょうか?
謎ですね、自分としてはステアリング戻ってほしいのですけどね。
結論自分の車はおかしいんじゃなくてベンツの仕様のようですね。
CHOPM4Nさん
コメントありがとうございます。
S204, W204のセルフアライニングトルク(SAT)が弱いのは仕様ですね。
歴史的にメルセデスはSATが弱い傾向があるようです。
今のメルセデスの多くは電動パワーステアリングを採用し、油圧パワーステアリングの時代とはステアリングフィールが異なります。
しかし、メルセデスのSATは弱めのようです。
メルセデスはハイキャスターにもかかわらずSATが弱いため、意図的なセッティングだと考えられます。
キャスタが寝ているとトレールは増えますが低速での復元力は小さくなり高速での復元力は大きくなります。SAIを寝かせれば低速での復元力は大きくなりますが、これが小さめなので戻らないと感じるのでしょう。重量の大きい車であまり強い復元力を発生するのは危険だと思いますが…。