1997年に京都議定書の採択、そして2000年代に入り、地球温暖化対策として内燃機関のCO2削減が求められてきました。
CO2と地球温暖化の関係は諸説あるためさて置いて、それ以降、各自動車メーカーはCO2削減が求められ、パワートレインの改善と改革を進めてきました。
今となっては、自動車のパワートレインは多彩な顔ぶれです。
・直噴ダウンサイジングターボエンジン(ガソリン)
・従来型NAエンジン
・SKYACTIV-G(高圧縮ガソリンエンジン)
・クリーンディーゼルエンジン
・HV(ハイブリッド・ビークル)
・PHV(プラグイン・ハイブリッド・ビークル)
・PHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)
・48Vマイルドハイブリッド
・EV(電気自動車)
・FCV(燃料電池自動車)
そして2019年、次世代のマツダSKYACTIV-Xエンジン搭載車が発売されました。
2000年代に入り、自動車のパワートレインは群雄割拠の様相を呈しています。
いったい今後、どのパワートレインが将来の覇権を握る事になるのか、それとも複数のパワートレインが切磋琢磨していくのか動向が注目されます。
パワートレイン
自動車のパワートレインとは、エンジンからトランスミッション、プロペラシャフト、デフ、ドライブシャフトの集合体を意味します。
なお、自動車の動力源は内燃機関以外に、モーターや燃料電池を搭載する車両もあるため、総括して「パワートレイン」と表現しています。
パワートレインの歴史と2000年代の多彩なパワートレインの勃興
130年以上も昔、ゴットリープ・ダイムラーにより、世界初の自動車が誕生したのが1886年。同年、カール・ベンツがガソリンエンジンを搭載した3輪車を完成させました。
それ以降、自動車やトラックに搭載するパワープラントは大きくガソリンとディーゼルエンジンの2種でした。
日本では戦後、二輪車と自動車はガソリンエンジンを搭載し、トラックやバスはディーゼルエンジンを搭載する2大潮流が続いてきました。
そして、2000年代に入り、自動車のパワートレインは増加して多彩な顔ぶれになりました。
1990年代まで、多くの乗用車のエンジンはガソリンNAエンジン、または、ドッカン・ターボエンジンでした。クロカン4WDを除き、ディーゼルエンジンを選択できる車両はごく一部でした。
ところが、今となっては乗用車のパワートレインの選択肢が随分増えたこともあり、隔世の感があります。
乗用車の歴史上、4サイクルと2サイクルエンジンの違い、エンジンの気筒数や排気量の違い、OHCやDOHC、OHVの違い、ターボ付き無しの違いはあれど、ガソリンエンジンが主流でディーゼルエンジンは少数派でした。
各自動車メーカーから独自のパワートレインが市場に投下され、今はあたかもパワートレインの戦国期とも言えます。そして、車のパワートレインは次のステージへ進みつつあるようです。
今後、世界を走る自動車のパワートレインの覇権争いが激化していく様相を呈しています。
直噴ダウンサイジングターボエンジン
直噴ダウンサイジングターボエンジンの特徴、メリットとデメリットについては別のページにて。
直噴ダウンサイジングターボエンジンは低負荷領域では燃費を稼げる反面、高負荷領域ではガソリン冷却の問題から燃費がそれほど伸びない傾向があります。エンジンにターボを装着する以上、燃焼室と排気ガスの温度が高くなりがちで、冷却の問題が立ちはだかります。
また、アイドリング付近の地トルクは絶対的なエンジン排気量によって決まります。直噴ターボエンジン搭載車のゼロ発進から法定速度に達するまでの加速フィーリングはNAエンジンとは異なります。
ターボラグをゼロにすることは難しいため、この問題を解決するためにメルセデス・ベンツSクラス(S450)には電動スーパーチャージャーが搭載されています。
S450のエンジンはメルセデスがリリースする約20年ぶりの直列6気筒DOHC。ウォーターポンプやエアコンプレッサー等の補機類を電動化することでベルトレス化が実現し、エンジン全長の短縮に成功しています。
今後、メルセデスは他のクラスに48V電気システムの搭載を展開することで、直噴エンジンは次のステージへステップアップしていく様相を呈しています。
従来型NAエンジン
従来型NAエンジンは過給機や直噴インジェクター、HVのような複雑で高価なパーツが不要なため、製造コストが安いメリットがあります。
従来型NAエンジンは部品点数が少なく、車種によってはメンテナンスが容易なことから、今後も軽自動車やコンパクトカーを含めた大衆車にマッチするエンジンと言えます。
クリーンディーゼルエンジン
欧州で普及したクリーンディーゼルエンジンはディーゼルエンジン特有のエンジン音と排気ガスの問題を解決すべく誕生しました。
太い低速トルクで車体を力強く押し出すディーゼルエンジンはターボとの相性とドライバビリティも良く、圧縮比が高く熱効率が高いため燃費が良く、燃料費の安さも魅力的。
ただ、某自動車メーカーの排気ガス規制偽装問題が発覚し、欧州政府のEV化推進の影響もあるのかクリーンディーゼルエンジンは出鼻をくじかれた感はあります。
なお、管理人が注目しているエンジンの1つはクリーンディーゼル。
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HV
1997年、トヨタ自動車が世界に先駆けて世に送り出した初代プリウスはHV(Hybrid Vehicle、ハイブリッドカー)の基礎を固めました。
その後、空力特性を追及したボディに1.5Lエンジンとハイブリッドシステムを搭載した20系プリウスが誕生。
30系プリウスは先代モデルのボディデザインを踏襲し、デザインとハイブリッドシステムが更にブラッシュアップされ、エンジン排気量が1.8Lへ拡大されました。
日本でハイブリッドカーブームが巻き起こったのは、まさに30系プリウスから。
2009年当時、日本国内のガソリン価格が高騰し、GSによっては1Lあたり200円超を記録しました。GSによっては、店頭看板の200円/Lの「2」の表示ができなかったケースもあったようです。燃料費の高騰がハイブリッドカー販売の追い風にもなりました。
それ以降、トヨタは他のモデルへハイブリッドシステムを横展開し、ストロングハイブリッド・ファミリーを築いてきました。
HVのメリット
HVのメインバッテリーが一定以上、充電されていて暖機が完了していれば、停止時はほぼエンジンが自動停止します。HVはアイドリングストップ・システムが完璧なのです。
加減速や車速、アクセルペダルの踏み込み量、ブレーキング等の複数のパラメーターからECUがハイブリッドシステムを複雑にコントロールしています。プリウスの場合、複数の条件が揃えば30km/l超の優れた燃費を叩き出します。
また、HVは加速時を除いてモーターのみの走行も多いため、静粛性が高い特徴があります。
HVのデメリット
HVはニッケル水素電池、または、リチウムイオン電池とモーター、インバーター等のハイブリッドシステムを搭載するため、重量増とコスト高の問題があります。
これらのハイブリッドシステムが車両価格を数十万円以上、引き上げてしまいます。
燃費の良さで割高な車両の元を取るためには、10万km以上の走行が必要との試算もあります。
また、グレードが高いハイブリッドモデルや複数のオプションを装着すると到底、元を取る事は不可能。
次に、ハイブリッドカーのエンジンは熱効率が高いため、言い換えれば冬場にヒーターを使用するためにエンジンを回す必要があります。よって、冬場のHVは燃費が伸び悩む傾向があります。
PHV、PHEV
トヨタのプリウスPHVや三菱自動車のPHEVはメインバッテリーの容量を増やして、モーターのみの航続可能距離が長い特徴があります。
特徴として、外部からメインバッテリーを充電できるところ。
PHV、PHEVのメリット
・低燃費
・航続距離が長い
・CO2排出量が少ない
・メインバッテリーから電源を取り出せる
PHV、PHEVのデメリット
・車両価格が割高
・充電設備が不十分
EV
日本でEVと言えば、三菱自動車のi-MiEVと日産自動車のリーフ。2009年から2010年にかけて注目を集めたEVながら、EV普及のための要はバッテリー価格と航続可能距離。
EVのメリット
・EV単独では、CO2排出量がゼロ
・静粛性が高い
・内燃機関とは異なる加速性能
・メンテナンスが容易
EVのデメリット
・割高な車両価格
・航続距離が短い
・充電スポットの問題
・急速充電によるバッテリーの劣化問題
FCV
【海外】
初代メルセデス・ベンツAクラスは2重床を採用し、床下空間にFCVの燃料電池スタックやバッテリーを搭載する計画でした。その設計思想はBクラスにも継承され、2009年にBクラスの限定生産がスタートしました。
しかし、既にルノー(日産)はメルセデス・ベンツ、フォードとの共同開発車であるFCVの商品化にピリオドを打っています。
【日本】
トヨタのMIRAIとホンダのCLARITY-クラリティは先端技術の結晶である燃料電池車。燃料電池車は水素を燃料にして水のみを排出します。
地球上で燃料電池車のメカニズムを詳しく解説できる人は、その道のエンジニアか関係者くらい。ほとんどの門外漢にとってFCVは未知の自動車ながら、燃料である可燃性ガスの水素くらいは理解できます。
水素ステーションのインフラ整備はコスト高ということもあり容易ではなく、燃料電池車の価格は7百万円超。燃料電池車の普及までの道のりは遠く険しいのかもしれません。
燃料電池車はお金持ち会社の資金力と技術力、プライドをかけた産物と言えるかもしれません。いずれにしても、5億円以上とも言われる水素ステーションの整備がFCV普及のカギを握っています。
SKYACTIV-X(SPCCI)
マツダが開発を進めてきたSKYACTIV-X(SPCCI : Spark Control Compression Ignition)エンジンは火花点火制御圧縮着火と言われ、ガソリンエンジンのブレイクスルーとも考えられる次世代の新型エンジン。
21世紀のパワートレインの行方
物事には必ず長所と短所があるもので、工業製品も同様。
ターゲットユーザーを定め、メリットを最大限に高めてデメリットを最小限に抑えることで、その技術の商品力は高まります。
今となっては、車名やボディデザイン、パッケージングで車選びをするだけではなく、先にパワートレインを選んでから車選びをすることで、よりオーナーのライフスタイルにマッチする車選びができるのではないでしょうか。
先に、ガソリンエンジンなのかディーゼル、HV、EVかを決めるのです。
そんな観点から、各パワートレインに向いたオーナー像を考えてみます。
直噴ダウンサイジングターボエンジン
・ドッカンターボは不要ながら、ターボ車特有の加速感と中回転以上の太いエンジントルクを好むオーナー向き。
・HVのように燃費だけにこだわるのではなく、ATやDCTの変速によってエンジン回転が上下し、車速が高まっていく車こそドライバーの感性にマッチしていると思う派向き。
クリーンディーゼルエンジン
・エンジンを高回転まで回すことは無く、むしろ低速トルクが太いエンジンを好むオーナー向き。
・エンジンに対してMaxパワーを求めるスポーツ性ではなく、実用性を求めるオーナー向き。
・年間走行距離が多く、燃料費を節約したいオーナー向き。
HV
・年間走行距離が多い、または、1台の車に長く乗るオーナー向き。
・車に静粛性を求め、街乗りの発進停止の繰り返しの中でアクセルレスポンスを重視するオーナー向き。
ちなみに年間走行距離が1万km以下で、3年や5年毎に車を買い替えるオーナーであれば、HVがいくら燃費が良くても経済的なメリットはありません。
PHV
・モーター走行を重視しガソリンの消費量を減らしたいオーナー向き。
EV
・高価なリチウムイオン電池が車両価格を押し上げているものの、近距離走行がメインで車に中長距離走行を求めないオーナー向き。
FCV
水素スタンドの普及に課題が残っていることもあり、FCVのオーナーは限られます。
FCVは遠い将来を見据えたクルマということもあり、今の時点でFCVオーナーは限定的ながら、今後の水素ステーションのインフラ整備を含めて動向が注目されます。
SKYACTIV-X(SPCCI)
SKYACTIV-Xエンジンはガソリンのリーン燃焼を可能とし、ハイパワーと優れた燃費を両立するエンジンとして注目を集めています。
SKYACTIV-Xエンジンのパフォーマンス次第で、パワープラントの覇権争いに新たな潮流が生まれてくるかもしれません。SKYACTIV-Xは要注目の次世代型エンジンと言えるでしょう。
最後に
2024年現在、各自動車メーカーが市場に投下しているパワートレインの覇権争いが進行中です。将来、パワートレインの覇権を握るのは1社なのか複数社なのかは、今の段階では五里霧中。
ここで将来のパワートレインの動向を予測して、自動車メーカーと関連サプライヤーの株を仕込んでおくことで化ける可能性があるかもしれません。他方、あらら・・となるかもしれません。
この将来を担うのはあなた、そして世界の自動車購入の予備軍次第。
どの扉を開けるかは、未来が答えを出してくれます。