2018年4月、当ブログの管理人が久しぶりに日本の各タイヤメーカーのオフィシャルサイトを閲覧していると、タイヤのラインアップに大きな変化が見られます。
かつて、エコカーの一大ムーブメントが巻き起こり、日本の各タイヤメーカーは燃費性能を引き上げた低燃費タイヤを続々と市場に送り出していました。
当時、タイヤカタログを眺めると、転がり抵抗係数の等級が「AAA」の低燃費タイヤが華々しくカタログを飾っていました。
「AAA」(トリプルA)の低燃費タイヤとは、一般財団法人、日本自動車タイヤ協会が定めるラベリング制度で最も転がり抵抗が小さくて燃費がいいタイヤ。
しかし、今となっては、日本の各タイヤメーカーのオフィシャルサイトで「AAA」タイヤが少なくなっているようです。
これは、何故なのか考えてみたい。
低燃費タイヤ、エコタイヤとは?
トヨタの30系プリウスに代表されるエコカーがブームの頃、自動車メーカーのカタログ燃費の数値を引き上げるために、各パーツにあらゆる技術が投入されていました。
その中の1つがタイヤ。
タイヤがグリップするメカニズムは、大雑把にゴムと路面の摩擦力によるもの。ゴムの摩擦力を上げることで、タイヤのグリップ力が上がっていきます。しかし、同時にタイヤの転がり抵抗が増えていき、燃費性能は低下します。
言わば、低燃費タイヤはハイグリップタイヤやSタイヤとは逆の発想で設計されているタイヤ。
自動車の燃費を良くするためには、転がり抵抗を小さくしたタイヤを履けばいいのです。コロコロと良く転がるので。このようなタイヤが低燃費タイヤ、エコタイヤと呼ばれるようになったのです。
ラベリング制度
一般財団法人、日本自動車タイヤ協会がラベリング制度を定め、一定の基準を上回るタイヤは低燃費タイヤ、またはエコタイヤと呼ばれます。
転がり抵抗係数の等級が「A」以上で、ウェットグリップ性能の等級が「aからd」に収まるタイヤを「低燃費タイヤ」と定義しています。
転がり抵抗係数(RRC) | 等級 | – |
RRC≦6.5 | AAA | 低燃費 |
6.6 ≦ RRC ≦ 7.7 | AA | |
7.8 ≦ RRC ≦ 9.0 | A | |
9.1 ≦ RRC ≦ 10.5 | B | グリップ重視 |
10.6 ≦ RRC ≦ 12.0 | C |
ウエットグリップ性能(G) | 等級 |
155 ≦ G | a |
140 ≦ RRC ≦ 154 | b |
125 ≦ RRC ≦ 139 | c |
110 ≦ RRC ≦ 124 | d |
出典:一般財団法人、日本自動車タイヤ協会
AAAタイヤの問題
タイヤの転がり抵抗とウエットグリップは二律背反の関係にあります。要は、この2つはシーソーのような関係。
タイヤの転がり抵抗を小さくするほど「AAA」に近づいていき、燃費が改善されます。しかし、ウエットグリップは低下していくトレードオフの関係にあります。
タイヤも「あちらを立てれば、こちらが立たず」のパーツ。
AAAのような低燃費タイヤは転がり抵抗をかなり小さくしたタイヤ。これで、燃費を稼ごうという燃費命タイヤなのです。
転がり抵抗が小さい
AAA | AA | A | B | C |
a | b | c | d |
ウエットグリップが高い
日本の各タイヤメーカーのオフィシャルサイトを見ると、「AAA-a」というタイヤが見つかります。計測上、そのようなデータが出ているのでしょう。
しかし、そのようなタイヤは別のどこかの性能にしわ寄せがいっている可能性があります。バラ色のタイヤなんて、この世に存在しないのです。
「AAA」タイヤは燃費を最優先したタイヤのため、ドライグリップ、ウエットグリップ、乗り心地、耐摩耗性、操舵感のどれか、または複数が犠牲になっている可能性が考えられます。
ミシュランタイヤに「AAA」は見つからない
例えば、ミシュラン・プライマシー3/MICHELIN PRIMACY3は低燃費タイヤでラベリング表示は「A-b」。
ミシュラン・プライマシー3のラベリング表示
AAA | AA | A | B | C |
a | b | c | d |
ミシュラン・プライマシー3は転がり抵抗はそこそこに抑えて、ウエットグリップを確保したタイヤに入ります。
今まで、管理人がミシュランのタイヤカタログを眺めてきて言えることは、ラインアップの中で「AAA」タイヤを見たことがありません。(下の追記を参照)
もし、ミシュランのラインアップに「AAA」タイヤが加わっていたら、下段のコメント欄に書き込んでください。
そもそも、ミシュランタイヤは大昔(1992年)からタイヤにシリカ(SiO2 = 砂の主成分)を配合し、転がり抵抗が小さく燃費がいいグリーンタイヤを販売してきました。
低燃費タイヤの大先輩とも言えるミシュランが「AAA」タイヤを作らないのは、理由があるからでしょう。ミシュランが「AAA」タイヤを作れないのではなく、あえて作らないのは、トータルバランスに問題が生じるからだと推測します。
追記
2022年2月発行のミシュランタイヤ総合カタログによりますと、MICHELIN「e・PRIMACY/イープライマシー」プレミアムコンフォートタイヤの転がり抵抗係数は「AAA」。ウエットグリップ性能は「c」。
e・PRIMACYはハイブリッドカーやEVにマッチするタイヤとして、低燃費性能と静粛性に磨きをかけたモデルとなります。
(出典)ミシュランタイヤ乗用車・商用車タイヤ総合カタログ2022
低燃費タイヤと燃費の関係
じゃ、「低燃費タイヤに交換すると、どのくらい燃費が良くなるの?」という疑問が湧きます。あえて低燃費タイヤを選ぶ以上、燃費がどのように変化するか気になるはず。
ブリヂストンタイヤのオフィシャルサイトによりますと、次のとおり。
タイヤ交換後の
燃費の変化 | – | タイヤ交換後
(タイヤの転がり抵抗性能) | ||
– | – | AAA | AA | A |
タイヤ交換前
(タイヤの転がり 抵抗性能) | AAA | – | -1% | -2% |
AA | 1%改善 | – | -1% | |
A | 2%改善 | 1%改善 | – |
表の見方
仮に、Aさんの愛車に装着しているタイヤのラベリング表示が「A-b」とします。
上図の[A]が該当します。
[A]タイヤから[AA]タイヤに交換すると、燃費が「約1%改善」されます。
[A]タイヤから[AAA]タイヤに交換すると、燃費が「約2%改善」されます。
ここで、誤解しないように注意したいのは、低燃費タイヤの燃費改善率は一定の速度で走行している時に効果を発揮します。
低燃費タイヤを履くと、特に信号機が少ないバイパス、そして、高速道路を一定の速度で走行している時に燃費の改善効果が得られます。
毎日、あなたが通勤や仕事でバイパスや高速道路を走行するのであれば、低燃費タイヤの性能を発揮しやすくなります。
一方、発進と停止を繰り返す街乗りでは、常に自動車が加速と減速を繰り返しているため、低燃費タイヤの燃費改善率は何とも曖昧になってしまい、上図の改善率以下に低下します。
低燃費タイヤの経済性
一例として、Aさんの1年間の車両燃料費が100,000円としましょう。
現在、Aさんの愛車に装着しているタイヤのラベリングは「A-b」とします。このタイヤから「AAA-c」タイヤへ履き替えるとしましょう。
上記の表では、[A]タイヤから[AAA]タイヤに交換すると、燃費が約2%改善されます。
100,000円/年×2% = 2,000円/年
これはかなり大雑把な計算ながら、1年あたり燃料費が2,000円節約できると仮定します。そして、4年後にタイヤ交換するとしますと、
2,000円×4年 = 8,000円
4年間で大雑把に8,000円の燃料費が節約できます。
今、Aさんの愛車に装着している「A-b」タイヤの価格が4本で40,000円とすると、交換後の[AAA]タイヤの価格が4本で48,000円未満であれば、低燃費タイヤによる経済的なメリットがあります。
交換後の[AAA]タイヤの価格が48,000円超の場合、燃費改善効果はあるものの、タイヤの価格が高くなるため経済的なメリットはありません。
以上はかなり大雑把な計算です。
実際、[A]タイヤから[AAA]タイヤに交換して、一律2%の燃費改善効果が得られるわけではありません。また、[AAA]タイヤの価格はメーカーとブランド、サイズによって異なります。
燃費はAAAタイヤで激変しない
このように、[AAA]タイヤに交換しても、燃費が大幅に改善されるわけではないことが見えてきます。タイヤ単独で自動車の燃費を良くするのは、非常に難しいのです。
もちろん、愛車がブリヂストンタイヤの「ポテンザ/POTENZA」を履いているのであれば、ハイグリップタイヤから[AAA]タイヤに交換することで、上の計算以上の燃費改善効果が得られるでしょう。
しかし注意点として、ポテンザから[AAA]タイヤに交換すると、オーナーは雨の日のウエットグリップの低さに驚くはず。
今まで、ポテンザを履いてドライブしてきたドライバーの体に、ポテンザのグリップ感覚が染みついているから無理もありません。
ハイグリップタイヤからAAAエコタイヤに履き替えたら、くれぐれも慎重な運転をお勧めします。
燃費を取るか、安全を取るか
低燃費タイヤの最高グレードである「AAA」タイヤを履くと、若干の燃費改善効果はあります。しかし、低燃費タイヤで燃費が激変するわけではありません。
そして、燃費と引き換えに「AAA」タイヤは特に、ウエットグリップが低下する傾向があるため、これが大きな問題なのです。
管理人のヒヤッと経験
かつて、管理人は愛車に某ブランドのエコタイヤを履いていて、ヒヤッとした経験が何回かあります。
あなたは、「どのメーカーのタイヤ?」と気になるかしれませんけど、ネガティブな情報公開は当ブログの主旨に反するので割愛します。
今や、管理人がそのタイヤ交換時に店舗から受け取った明細書と領収書が手元にありませんし、証拠が手元に無い以上、公開はできないのです。
進むか、踏むか
話を戻しますと、ドライバーが運転中、信号機が微妙なタイミングで黄色に変わる時があります。
その時、ドライバーはルームミラーで後方を確認し、急ブレーキを踏むか、行くかの判断が微妙な瞬間があります。
過去のエコタイヤの悪癖
とある夜の雨の日、管理人がそのようなシーンで急ブレーキを踏んだら、停止線をオーバーして横断歩道の上でようやく停止した経験があります。停止時、車のフロントは若干、交差点に進入していました。
その時、管理人がブレーキペダルを踏んだ瞬間からABSが作動状態。
同じく、冬の雨の日、管理人が普通にブレーキを踏むと、ABSが作動して制動距離が伸びてしまい、前の車まであとわずかなところで停止したこともあります。
当時、履いていたエコタイヤは外気温が低いと、ドライバーを裏切るようにグリップ力が低下する悪癖があったのです。
このように、当時の超エコタイヤのウエットグリップ性能の低さは看過できないほどでした。管理人の経験上、燃費性能をかなり引き上げた超エコタイヤはウエットグリップ性能に問題があったのです。
このようなヒヤッと経験をすると、超エコタイヤなんて2度と買わなくなります。
管理人と同じような「ヒヤッとした」経験があるドライバーは1人や2人ではないでしょう。あるいは最悪、事故ってしまったドライバーがいるかもしれません。
過去の超エコタイヤの中には、失うものが大きく、わずか数%の燃費改善と引き換えに、タイヤのグリップ不足が原因で事故ってしまったら、本末転倒で意味不明なのです。
かつて、「いったい、某タイヤメーカーの開発陣は何を考えている?」状態だったのです。
なお、タイヤも日進月歩の工業製品。現在のエコタイヤは当時より、ドライとウエットグリップのバランスが最適化されていると思われます。以上は、あくまで過去の話です。
必ずしもトレンドが是とは言えない
日本は雨が多い国。
日本の1年間の平均降水量はアメリカの約2倍。日本はタイ王国と肩を並べるほど、雨が多い国なのです。
この事実に直面して、日本の各タイヤメーカーは行き過ぎた「AAA」タイヤから「AA」や「A」タイヤの開発に経営の舵を取り直してきたのではと推測します。
だからこそ、日本の各タイヤメーカーのオフィシャルサイトを閲覧すると、今となってはエコタイヤのラインアップは「AA」と「A」タイヤが大多数なのでしょう。
自動車や自動車部品に限らず、どの分野でもブームやトレンドがあります。いつの時代もその時の「空気感」があります。
業界がトレンドに「片足を突っ込む」くらいであればいいのです。しかし、業界がトレンドに両足を突っ込んでしまうと、業界全体が間違った方向に進んでしまうことがあることがタイヤからも窺えます。
世の中の事象は総じてメトロノームのように行き過ぎて、逆方向に戻ることが多々あるのです。
今まで、滑った転んだを経験してきた大人であれば、この意味を理解できることでしょう。
燃費を取るか、安全を取るか
改めて、タイヤは安全と人命を支えている重要なパーツ。燃費を取るか、安全を取るかはドライバーの考え方次第。
「自分は安全運転に徹しているから、超低燃費タイヤを選ぶ。」というドライバーもいることでしょう。
走行中、突発的な危険に遭遇した瞬間、ドライバーは急ブレーキと急ハンドルで危険回避に努めます。その瞬間、確実に言えることは、危険を回避できるか否かは、最終的にタイヤのグリップ力によって大きく左右されます。
雨の日はなおさら。
ABSやスタビリティ・コントロール・システムで神回避ができるわけではありません。
あなたは、2%UPの燃費向上を取りますか?
それとも、安全性を取りますか?
どちらを取るかは、あなた次第です。
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